20. 塩素原子によるオゾン分子の分解

<アーギュメント>
成層圏でクロロフロロカーボン類の光化学分解によって生じる塩素原子は、
成層圏に存在しているオゾン(O3)と反応して、酸素分子(O2)とClOを生じる。
このClOは原子状酸素(O)と反応して、
酸素分子を生じると同時に塩素原子を再生する。
このプロセスが示すように、たった1個の塩素原子が、
著しく大量のオゾン分子を分解させてしまう。

<問>
このアーギュメントにおける暗黙の前提を最もよく表現しているのは、
次のうちどれか?

A 塩素原子が再生される連鎖反応が終結するのは、
成層圏内に存在するオゾン以外の化学種と反応した場合である。
B 塩素原子とオゾン分子との反応は、どちらの反応物についても一次反応である。
C 成層圏内のO3はClに比べて著しく多い。
D 成層圏内には原子状酸素の源が存在する。

<解答>

正解はDだと考える。
「このClOは原子状酸素(O)と反応して」という記述があるが
ClOが原子状酸素と反応するためには原子状酸素がどこからか供給されなければならない。

Aは、事実ではあるが、このアーギュメント自体は連鎖反応の終結には言及していない。

Bは正しくない。
一次反応の典型例は放射性元素の崩壊だが、
オゾンの分解は一次反応ではないし
少なくとも塩素原子の濃度はオゾンの濃度に左右されない。

Cは判断の難しいところだが
「たった1個の塩素原子が、著しく大量のオゾン分子を分解させてしまう」
という事実は反応機構のことを言っているのであって、
実際に成層圏内に存在する量については言及していない、とも取れる。

22. ナフタレンのスルホン化反応

<アーギュメント>
ナフタレンをスルホン化すると、2種類の化合物が得られる。
室温の反応では、生成物はナフタレン-1-スルホン酸である。
ところが165°Cで反応させると、生成物はナフタレン-2-スルホン酸となる。
ナフタレン-1-スルホン酸を硫酸とともに180°Cに加熱すると、
ナフタレン-2-スルホン酸が得られる。

<問>
この観察結果から導きだせる最もふさわしい論理的な推測結果は、
次のうちのどれか?

A 芳香族化合物のスルホン化は、いろいろな種類の生成物を得るための
優れた手段である。
B 室温におけるスルホン化反応は、速度論的制御を受けている。
C 芳香族化合物の求電子置換反応では、
反応生成物はさまざまな混合物であることが多い。
D 芳香族化合物の置換反応の生成物は、実験条件によって大きく変化する。
E この二種類の反応生成物についての相対的な熱力学的安定性は、
温度によって劇的な影響を受けている。

<解答>
「ナフタレン-1-スルホン酸を硫酸とともに180°Cに加熱すると、
ナフタレン-2-スルホン酸が得られる」という記述から
スルホン化は可逆反応であるということ、
ナフタレン-2-スルホン酸の方がナフタレン-1-スルホン酸より
エネルギー的に安定であること、
ナフタレン-2-スルホン酸の生成に必要な活性化エネルギーは
ナフタレン-1-スルホン酸より大きいこと、
ナフタレン-1-スルホン酸は準安定状態にあることなどが考えられる。

正解はBだと考える。
速度論的制御とは活性化エネルギーの大小で生成物を制御することであり
熱力学的制御とはΔGの大小で生成物を制御することである。

Aだが、スルホン化の用途について、この観察結果からは何も言えない。
Cも事実としては間違っていないが、「この観察結果から導きだせる」結論ではない。
「この観察結果」では混合物についてまったく言及していない。
Dは正しいが、Bの方が具体的である分より解答にふさわしい。

Eについてだが、Eを正しいと仮定し、
「熱力学的に安定」とはΔGが最小値を取ることとすると
ΔG = ΔH -TΔS
ΔGは室温の時はナフタレン-1-スルホン酸<ナフタレン-2-スルホン酸で
高温ではナフタレン-2-スルホン酸<ナフタレン-1-スルホン酸、
ということはΔHもしくはΔSの値が変化しないと辻褄が合わなくなる。
ΔHもΔSも固有の値なので、Eは誤り。

18.気体定数と温度目盛

<アーギュメント>
絶対温度(ケルビン温度)目盛では、
1気圧下における水の凝固点(氷点)と沸点の差の100分の1を
1度としている。
華氏温度(ファーレンハイト温度)目盛では、
1気圧のもとでは水は32°Fで凍り、212°Fで沸騰するから、
1の温度上昇は、絶対温度目盛だと100/(212-32)すなわち
5/9度に相当する。
華氏温度での絶対零度は32-9/5*273つまり-459.4°Fとなる。

絶対零度を原点としたこの温度目盛を絶対目盛(A)と呼ぶことにしよう。
この温度目盛によると、氷点は459.4+32すなわち491.4Aとなり、
水の沸点は459.4+212つまり671.4Aとなる。
ギブズの自由エネルギーと平衡定数の関係式

 

は、どのような温度目盛を用いても成立するはずである。
だから、この絶対目盛(A)を用いて計算すると、
気体定数Rの値は14.965 J mol-1 A-1となる。

<問>
このアーギュメントが正しいものと納得できる選択肢は、次のうちのどれか?

A F=32+(C*9/5)の式に、-273°Cと定義されている絶対温度を代入したとき、
華氏温度が-459.4°Fとなることを確認する。
B ΔG0の定義を確認する。
C ケルビン温度による気体定数の値が8.314 J K-1 mol-1であることと、
8.314*9/5が14.965であることを確認する。
D 華氏温度の零度が、もともとどのように定義されたのかを調べる。

<解答>
この場合のふさわしい回答はCである。
アーギュメントはT(K)=9/5*T'(A)といっているので
ΔG=RT ln Kに代入してやればよい。

Aはアーギュメント中で既に示されている。
BもAに同じ。
Dは、それ自体は興味深いが、気体定数には関係ない。

16. 遷移金属元素の色の由来

<アーギュメント>
遷移金属元素の化合物のほとんどは着色している。
これは、遷移金属原子やイオンが不完全に満たされたd軌道を持っているために
d-d遷移が可能となるからである。
AgClやTiO2のような化合物では、d軌道は完全に満たされているか、
あるいは完全に空であるから、この遷移は不可能である。
そのため、これらの化合物は純白色である。
このことが、遷移金属の化合物の豊かな色彩の源が
d-d遷移であることの根拠となっている。

<問>
このアーギュメントに含まれる誤りを最もよく記述しているのは、
次のうちのどれか?


A AgBrとAgIはどちらも黄色である。
B 巨大な陰イオンの分極は、共有結合性の増加と着色をもたらす。
C KMnO4とK2CrO4はどちらも着色している。
D 濃い着色の原因は電荷移動過程に基づく。
E 遷移金属の非化学量論的酸化物は黒色である。
F 電子的遷移はd-d遷移以外の可能性もある。

<解答>
正解はF。
d-d遷移以外にMLCT遷移、LMCT遷移も着色の原因となる。

Aは、アーギュメントに含まれる誤りを指摘する材料にはなるが、
「最もよく記述している」とは言えない。

Bは、内容が正しいかどうかは確信が持てないが
このアーギュメントに含まれる誤りとは
「遷移金属の化合物の豊かな色彩の源がd-d遷移である」ということなので
これに対する直接の反論にはならない。

Cも、Aに同じ。

Dは、内容自体は正しい。
d-d遷移はd軌道内遷移であるため、LaPorte禁制となり吸光度は低い。
一方、CT遷移はLaPorte許容遷移のため、吸光度は大きくなる。
しかし色彩とは関係ない。

EもA、Cに同じ。

14. カルボン酸塩脱炭酸の反応機構

<アーギュメント>
カルボン酸の塩類と臭化シアンは次式のように反応して
アルキルニトリルを与える。

RCOONa + BrCN → RCN + CO2 + NaBr

この反応のメカニズムとして、カルボン酸にシアン化物イオンが攻撃して、
COO-原子団が置換されるというものが提案された。

<問>
この提案された反応機構に対する最も強力な反論となるのは、
次のうちのどれか?


A 出発原料のカルボキシル基の炭素を14Cで標識した場合、
生成物のニトリルの炭素も同じように14Cで標識されたものとなる。
B カルボン酸塩がナトリウムイオンと二酸化炭素に変化するのだから、
この反応機構は上に提案されたような簡単なものではない。
C 反応収率が100%にならないから、他の副反応が起こっているに違いない。
D この反応は、Rがアルキル基の場合よりも、
芳香族原子団(アリール基)の方がずっとよく進行する。

<解答>
正解はA。
カルボキシル基がシアノ基で置換されるという話なのだから、
カルボキシル基なりシアノ基なりの炭素をラベリングしてやれば良い。
カルボキシル基の炭素をラベリングして、
14CがCO2の方に検出されれば提案された反応機構は正しかったわけだし、
シアノ基の方に検出されれば間違っていたということ。
シアノ基の炭素をラベリングしたならこれと逆になる。

Bは、何と言うか、思考停止してません?

Cは、主張自体は正しい。しかしここでは副反応の話は全くしていない。

Dは、多分事実なんだが、反応機構とは関係ない?
Rがアリール基では反応が進むけどアルキル基では進まない、というなら
話はまた別だろうが……。

12. 自由エネルギー変化

<アーギュメント>
単位の対数を取ることはできない。
だから、次のような自由エネルギー変化を示す式の場合にも、
ln Kは無次元でなくてはならない。

 


いま、次のような反応を考える。

 


この場合の平衡定数はmol dm-3のディメンション(次元)をもつことになる。
だから、このような反応のΔG0を計算することはできず、
ΔG0を計算する式は、反応に寄与する化学種の数が
反応系と生成系とで等しい場合だけしか使えない。

<問>
このアーギュメントに含まれる誤りを最もよく記述しているのは、
次のうちのどれか?


A 対数をとるときには単位は常に無視される。
B Kの単位は、反応系と生成系の化学種の数の比に依存する。
C 平衡定数を論じる場合、濃度のかわりに活量を用いる必要がある。
D このアーギュメントには別に誤ったところはない。

<解答>
Aが妥当かなぁ。
単位は常に無視される、というか、どうにか無次元になるように
掛けたり割ったりしなければならない。

B、Cは正しい。
だが問題は、単位のある大きさの対数をどうするかということなのだ。
Dについては、そんなはずはない。
それでは大半の反応式の自由エネルギー変化が計算できない。

10. 過塩素酸塩の溶解性

<アーギュメント>
過塩素酸ナトリウム(NaClO4)と過塩素酸カリウム(KClO4)の2種類の塩のうち、
水にずっとよく溶けるのはどちらであろうか。
ここで注意すべき事項は、
「陽イオンと陰イオンのイオン半径が大きく違う塩のほうが、
イオン半径があまり違わない塩に比べてみると、ずっと水に溶けやすい」
という一般則である。
そしてNa+とK+の六配位の場合のイオン半径は、
それぞれ0.102 nmと0.138 nmである。
だから、NaClO4のほうがKClO4よりも水にはずっと溶けやすいはずである。



<問>
このアーギュメントが基づいている前提は、次のうちどれか?

A 水は極性溶媒である。
B カリウムの原子番号はナトリウムよりずっと大きい。
C 過塩素酸イオンのイオン半径は0.14 nmよりずっと大きい。
D Na+とK+は周期表中で同じ族に属している。
E Na+はK+よりも電気的にずっと陰性である。

<解答>
消去法でいくとAしか残らないのだが、わからない。
確かに非極性溶媒中では極性溶媒中とは異なる挙動を示すであろう。

このアーギュメントでは
NaClO4は陽イオンと陰イオンのイオン半径が大きく違うが
KClO4はイオン半径があまり違わないから
NaClO4のほうがKClO4よりも水にはずっと溶けやすいはずだと言っている、
と私は理解したのだが……

こういう場面で「あまり」とか「ずっと」とかいう半定量的な表現は正直困る。

B. ナトリウムの原子番号は11、カリウムは19。
カリウムの原子番号はナトリウムより「ずっと」大きいだろうか?
それはともかくとしても、原子番号が大きいことが
かならずしもイオン半径が大きいことを意味するわけではない。

C. 過塩素酸イオンのイオン半径は0.14 nmくらいである、
というならわかるんだが
過塩素酸イオンのイオン半径が0.14 nmより「ずっと」大きかったら
(たとえば2Åくらい)
私の感覚ではKClO4はイオン半径が「あまり」違わないとは言えない。

D. ここで焦点になっているのはイオン半径であって、
同族元素かどうかは関係ない。
何ならナトリウムイオンの代わりにアンモニウムイオンでもいい。
アンモニウム塩も、ナトリウム塩ほどではないにせよ、
カリウム塩よりは水に溶けやすい。

E. ナトリウムの電気陰性度(ポーリング)は0.93、カリウム0.82。
ナトリウムはカリウムより電気的に「ずっと」陰性だろうか?
このアーギュメントに、電気陰性度に関係する事柄はあっただろうか?

8. 不活性電子対効果

<アーギュメント>
いわゆる”不活性電子対効果“は、
周期表のなかのp-ブロック元素において、
下に進むほどs電子が結合に関与する傾向が著しく減少するという
観察結果を説明している。
この実例として次のものがあげられる。
Ge(II)は強力な還元剤であるがGe(IV)は安定である。
Sn(II)は還元性のイオンであるが、Sn(IV)は共有結合性で安定である。
Pb(II)はPb(IV)に比べてはるかに安定である。

<問>
ここから導きだされる一般的な帰結をまとめるとすると、
次のうちどれが最もふさわしいか?


A 第14族においては、周期表を下に進むにつれて
酸化数が+2の状態の安定性が増す。
B 不活性電子対効果は、2個のs電子がもつ固有の性質である。
C 鉛(II)化合物はイオン性である。
D 鉛(IV)化合物は酸化剤としてはたらく。
E 炭素と硅素の場合には、酸化数が+4の場合のみ安定である。

<解答>
正解はA。消去法で。

B. 不活性電子対効果(inert-pair-effect)は
s電子の固有の性質ではなく
相対論的効果?(relativistic effects)によるものである。

Cについて、このアーギュメントは何も言及していない。
Cそのものは正しいと思うが、確信がない。

Dは正しい。しかも強力な酸化剤だったと思った。
しかし「アーギュメントから導きだされる一般的な帰結」ではない。

Eについても、このアーギュメントは何も言及していない。
言及はしていないが、たとえばメタンは酸化数-4だが
安定であることを考えるとむしろ誤りと言える。