16. 遷移金属元素の色の由来

<アーギュメント>
遷移金属元素の化合物のほとんどは着色している。
これは、遷移金属原子やイオンが不完全に満たされたd軌道を持っているために
d-d遷移が可能となるからである。
AgClやTiO2のような化合物では、d軌道は完全に満たされているか、
あるいは完全に空であるから、この遷移は不可能である。
そのため、これらの化合物は純白色である。
このことが、遷移金属の化合物の豊かな色彩の源が
d-d遷移であることの根拠となっている。

<問>
このアーギュメントに含まれる誤りを最もよく記述しているのは、
次のうちのどれか?


A AgBrとAgIはどちらも黄色である。
B 巨大な陰イオンの分極は、共有結合性の増加と着色をもたらす。
C KMnO4とK2CrO4はどちらも着色している。
D 濃い着色の原因は電荷移動過程に基づく。
E 遷移金属の非化学量論的酸化物は黒色である。
F 電子的遷移はd-d遷移以外の可能性もある。

<解答>
正解はF。
d-d遷移以外にMLCT遷移、LMCT遷移も着色の原因となる。

Aは、アーギュメントに含まれる誤りを指摘する材料にはなるが、
「最もよく記述している」とは言えない。

Bは、内容が正しいかどうかは確信が持てないが
このアーギュメントに含まれる誤りとは
「遷移金属の化合物の豊かな色彩の源がd-d遷移である」ということなので
これに対する直接の反論にはならない。

Cも、Aに同じ。

Dは、内容自体は正しい。
d-d遷移はd軌道内遷移であるため、LaPorte禁制となり吸光度は低い。
一方、CT遷移はLaPorte許容遷移のため、吸光度は大きくなる。
しかし色彩とは関係ない。

EもA、Cに同じ。